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「育児で仕事を諦めない」ママクリエイターの背中を押す広告の制作秘話―電通クリエーティブX「しゅふクリ・ママクリ」広告制作チーム

「クリエイティブ業界は拘束時間が長く、仕事と家庭の両立ができないので仕事を辞めた」そんな声がよく聞かれます。この問題を解決するひとつの方法として、『しゅふクリ・ママクリ』は2016年度の宣伝会議賞に協賛しました。課題は、「結婚や出産を経ても仕事を続けたい女性クリエイターに『しゅふクリ・ママクリ』を利用してもらうアイデア・コピー」。結果、多くのクリエイターから多数のコピーが集まり、その中で企業賞に選ばれたコピーが「この子のために生きること、は この子のために諦めること、ではない。」でした。実は、このコピーには続きがあります。このコピーをもとに、3部作の雑誌広告が展開されたのです。今回は、このコピーを書いた田口さんと、広告を制作した電通クリエーティブX(クロス)のメンバーに、この広告ができあがるまでのインサイドストーリーを取材しました。

はじめに簡単に自己紹介をお願いします。

赤羽:今回の案件にチーフデザイナーとして関わり、レイアウト・デザインを担当しました。普段は、デジタルカメラや食品などコンシューマー向けの仕事をしています。

飯塚:今年、新卒でクロスに入社し、配属されて最初に担当したのがこの広告でした。赤羽のもとでレイアウト・デザインの実作業をおこないました。

佐野:私はアートディレクターとして関わりました。普段は、化粧品などの女性向け商品のほか、携帯電話や缶コーヒーなど幅広く手がけています。赤羽や田口とは、もともと別の部署だったのですが、今年から同じ部になり、この案件で初めて一緒に仕事をしました。

石原:社内のデザイナーとコピーライターで構成される技術職集団をマネジメントしています。私自身はコピーライターですが、クリエイティブディレクターとしても、いろいろな企画に携わっています。

田口:2014年の入社以来、ずっと石原の下でコピーを書いています。カメラやプリンター、自動車、食品、化粧品、教育など、ジャンルはさまざまです。

橋本:この案件ではプロデューサーとして、御社とのやりとりや、社内のスタッフの取りまとめ、進行・予算管理をおこないました。

左から:飯塚さん、佐野さん、田口さん、石原さん、橋本さん、赤羽さん

ありがとうございます。今回の広告制作は、田口さんが宣伝会議賞に応募したコピーがきっかけでした。コピー制作時の思いを教えていただけますか。

田口:スキルアップのために、宣伝会議賞には毎年応募していました。2016年度も、課題を選ぶ中で、「しゅふクリ・ママクリ」が、自分にとっても課題だなと感じたので、挑戦してみようと思ったんです。

宣伝会議賞「しゅふクリ・ママクリ」のオリエンテーション

田口:最初に考えたのは、ママの気持ちではなく世間の空気感でした。「子どもも、仕事も」っていうと、母親のワガママだとか、子どもがかわいそうという空気が、まだ感じられます。だからママたちは働くことを負い目に思うし、自分を責めてしまうのかなと。そこで、まずは「ママが働くこと」をポジティブなイメージに変えたいと思いました。一方で、やっぱりお給料をもらう以上は、会社に貢献しなきゃいけないし、子育て=優遇ではないと思うので、無責任に「働こうよ!」と言うのではなく、自分なりの責任や覚悟を持った上で一歩踏み出してもらいたいなと。そして最終的に「諦める」というワードに行き着きました。クリエイティブの人たちって、「もう限界? 諦めるの?」とか言われると燃えますよね(笑)。だから、この言葉は響くんじゃないかなと。

そういった思いから、コピーができあがったんですね。その後の流れを教えていただけますか。

石原:田口のコピーがせっかく協賛企業賞をいただいたので、なんとか形にして世に出したいと考えました。自主提案でしたが、部内で複数チームをつくり、社内競合という形式でプレゼンさせていただいたんです。結果的に、雑誌でシリーズ広告を制作させていただくことになりました。

佐野:チームは全部で5つあって、その一つが私、赤羽、飯塚のチームでした。コピーありきの企画だったので、コピーの印象をブレストするところから始めて。「いいコピーだけど、捉え方によってはシリアスに感じてしまうよね」「深刻さを訴えるよりは前向きに伝えていきたいよね」といった話をしていました。

赤羽:前向きな広告にするためにどうしたらいいかを議論するなかで、気持ちを補足するボディコピーがあったほうがいいんじゃないかという話が出ました。そのタイミングで他チームの案に入っていたボディコピーを見て、これいいねと(笑)。

佐野:ママの大変な状況をあれこれ書き連ねるのではなく、子育ての素晴らしさが描かれていたんです。周りに「助けて助けて!」と言っている人より、陰ながら頑張っている人を応援したくなる時ってあるじゃないですか。この方向でボディコピーを書いてほしいと田口に依頼しました。

赤羽:最後に、ビジュアルはどうしようとなって。イラストにしてみたり、母親を登場させたり、いろいろ検証する中で、親にしか見せない子どもの表情や仕草が写っている写真を入れようという結論に到りました。それも、ちょっとプッと吹き出してしまうような瞬間。子育ての幸せとか素晴らしさって、そういうところにあるんじゃないかなと。プレゼンの段階では、イメージに近いダミーの写真でご提案しました。結果的にこの案を採用いただけたので、急遽、実際に使える写真を探すことになりました。でも、レンタルフォトにある写真は今回求めているリアルな表情じゃないし、困ったなということで、プロデューサーとして入っていた橋本に相談したんです。

橋本:話を聞いてすぐに思い浮かんだのが、弊社「写真部」の存在です。他にも普段から写真をよく撮っている社員や、子どもがいる社員も多いので、社内公募をすればいい写真が集まるかもしれないと思いました。写真のテーマは「うまく撮れた写真というより、たまたま撮れた面白い写真」。最終的には100枚近くの写真が集まりました。そこからメンバーでセレクトして御社に提案し、この3枚が選ばれました。

飯塚:私は、新入社員研修が終わり、この頃、正式にこの部に配属されました。デザイナーとしての初めての仕事です。選ばれた写真を曲線でトリミングしたり、コピーも手書き文字で配置したり、やわらかい印象を持たせることを意識しました。

佐野:読後感を温かくしたかったんです。だから色づかいも優しくしました。また、写真はトーンをそろえるためのレタッチをしました。でも極力オリジナルに近いトーンに保っています。一度Instagramのようにフィルターかけたパターンもつくったのですが、違うねと。つくりこんでしまうと、コンセプトから外れてしまったんです。

ちなみに3部作になっていますが、工夫をした点はありますか?

飯塚:デザイン面でいうと、もともと「しゅふクリ・ママクリ」のピンクをベースに考えていたのですが、3部作だったら色を変えてみようと。同じ色で続ける強さもありますが、同じ原稿だと思われて読み飛ばされたらもったいないので、印象を変えるためにも毎回違う色にしました。

田口:ボディコピーは、裏設定で時系列になっています。最初はピンク。出産後すぐですね。出産ってキャリアが中断されるし、仕事的にはマイナスイメージがありますが、子どもから多くの気づき・発見をもらえるし、人間的にも成長できるし、特にこの業界にとってはプラスなんじゃないか、というメッセージです。

「しゅふクリ・ママクリ」雑誌広告ピンクver

そうだったんですね! 次は何色ですか?

田口:グリーンです。再就職に悩む時期。「母親という仕事には代わりがいない」という結論に至って、仕事を辞めるお母さんって多いと思うんです。だから今回は、その先に行きたかったんです。その結論を改めて問いてみるというか。まあ、答えは出ないんですけど。

「しゅふクリ・ママクリ」雑誌広告グリーンver

最後のブルーはどういう意図なのでしょうか?

田口:復職してからの話です。それはもう、葛藤の日々だと思うんです。中途半端だなとか。何やってんだろうとか。でも、どっちの道を選んでもきっと悩みは尽きない。ひとつ言えるのは、ママの笑顔が多いことが、子どもにとっていいことなんじゃないかなと。わたしが出せた結論はそれだけです。全体的なことで言うと、子育てや仕事っていろいろな考えがあるし、正解がないので、コピーが押しつけにならないように気をつけました。

「しゅふクリ・ママクリ」雑誌広告ブルーver

佐野:たしかに、押しつけがましいと見向きもされないですよね。逆に、声が聞こえてきそうな日常の写真を見ると、自然と応援したくなると思うんです。時代的にも肩肘張らずに等身大を推奨する流れですし。このキャッチコピーもボディコピーもそうで、強がりではないけれど、強い意志を感じる宣言のようじゃないですか?

たしかに“しなやかさ”を感じますね。では最後に今後どのように展開していきたいなど、ありますか?

石原:この広告は3部作で完結したと思っています。この切り口を続けていくと説教臭くなってしまうので。またキャッチコピーだけだと、ネガティブに捉えてしまう人もいるかもしれません。でも、キャッチコピーと逆の印象の写真に、書き手である田口の「意図」がボディコピーで補完されています。サビしかなかった曲が、フルコーラスとして完成されたというか。宣伝会議賞で選んでいただいた、ただの「キャッチコピー」が、商品のサービスを適切に伝える「広告」として完成しました。

田口:メンバーのおかげで、これがあるべき姿だったと思うくらい、正確なニュアンスで世に出すことができました。あとは、この広告を読んでくれたママクリエイターたちの、仕事や子育てに対する考えが、少しでもポジティブに変わったらうれしいです。

石原:この広告は、クリエイターの方だけでなく、受け入れる側の企業にも届いてほしいと願っています。ママが働ける環境を整えていくことも大事なことだと思います。

[PROFILE]

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田口恵子(たぐち・けいこ)

株式会社電通クリエーティブX ソリューションdiv. コピーライター/1982年生まれ。埼玉県出身。2014年、電通クリエーティブX入社。CM、カタログ、店頭、Webなど、担当媒体は多岐にわたる。

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佐野祐子(さの・ゆうこ)

株式会社電通クリエーティブX ソリューションdiv. アートディレクター/1983年生まれ。神奈川県出身。2012年、電通クリエーティブX入社。化粧品など女性向けの商品から、缶コーヒーやオーディオ機器、携帯電話などジャンル問わず幅広く手がける。

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赤羽誠(あかはね・まこと)

株式会社電通クリエーティブX ソリューションdiv. デザイナー/1987年生まれ。長野県出身。2010年、電通クリエーティブX入社。グラフィックを中心に、店頭ツールやOOH、Webなど、さまざまな媒体のデザインを担当。

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飯塚朋未(いいづか・ともみ)

株式会社電通クリエーティブX ソリューションdiv. デザイナー/1994年生まれ。愛知県出身。2017年、電通クリエーティブX入社。イラストの制作も得意とし、配属4ヵ月にして採用されたイラスト多数。

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橋本あづさ(はしもと・あづさ)

株式会社電通クリエーティブX ソリューションdiv. プロダクションマネージャー/1992年生まれ。福島県出身。2015年、電通クリエーティブX入社。CM部署を経て現在はグラフィック、Webをメインに制作業務を手がける。

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石原大次郎(いしはら・だいじろう)

株式会社電通クリエーティブX ソリューションdiv. 部長 コピーライター/1977年生まれ。千葉県出身。2009年、電通クリエーティブX入社。19歳のころ某広告制作会社にアルバイトで入社、コピーライターとしてキャリアを積む。媒体を問わず広告制作全般に携わる。