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ママ・パパのリアルな空気をつかんでクライアントワークに活かす―博報堂こそだて家族研究所

博報堂には、子どものいる家庭を取り巻く環境に関してナレッジを開発する専門機関「こそだて家族研究所」があります。妊娠期から小学生の子どもを持つ家族に関するさまざまなデータを取り揃え、企業の商品開発支援や、広告などのコミュニケーション支援をしています。今回、こそだて家族研究所の亀田さんと、牧さんに取材をしました。研究とクライアントワークをどのようにサイクルさせているのか、お話を伺いました。

まず「こそだて家族研究所」についてお聞かせいただけますでしょうか。

亀田:実は、歴史が長くて、前身となるBaBU プロジェクト(Baby, Kids & Family BUsiness project)から数えると1996年から活動しています。名称を変更したのは、2012年10月。BaBUプロジェクトのころは赤ちゃんを持つママをターゲットにして活動をしていたのですが、世の中の商品の多くは「ファミリー」をターゲットにしているにも関わらず、肝心の「ファミリー」のあり方は時代によって大きく変化しているのではと考えました。そこで、もう少し幅広く子育て家族について考えていこうということで組織を一新しました。子どもが大きくなれば子育て状況も変わり、消費行動も変化していきます。こういった変化も研究対象としています。

名称変更のタイミングで、対象を「ママとベビー」から「ファミリー」層に拡大したということでしょうか?

亀田:おっしゃる通りです。そして、研究所といってもデータを集めて研究するだけではなくて、業務に活かしていくことを目指して活動しています。メンバーの多くが子育て中なので、業務時間が限られてる中で、質の高いアウトプットを効率良く出しながら、さらに私生活で得た知見を会社やクライアント、さらには社会に還元し、子育て環境を良くしたいという気持ちでプロジェクトに参加しています。

亀田さんはどういった役割なのでしょうか?

亀田:私は普段、研究開発局という部門で生活者や社会が今どうなっているのかについて研究をしており、こそだて家族研究所での活動とシナジーが高いです。研究所では、メンバーのお世話役として、研究所に所属するマーケやPR、制作、プロモーションなどのメンバーのサポートや活動の推進役もしています。各メンバーは、ママ・パパという共通項で集まっているので家庭も忙しいし、現業も忙しい。このため、ちゃんと研究所が活動するよう働きかける役割です。

左から:亀田さん、牧さん

牧さんはクライアント業務もなされているんですよね?

牧:所属はPR戦略局コーポレートPR部です。クライアントの企業広報活動のサポートや、スポークスパーソン向けのメディアトレーニングやプレゼンテーショントレーニング、広報勉強会の実施などをおこなっています。最近では、社会貢献(CSR)施策の立案サポートや、共創(CSV)でどう世の中にコミュニケーションしていくかなど、コーポレート系の案件に幅広く携わらせていただいてます。

そういった企画・提案に、子育て経験やこそだて家族研究所でのナレッジが生かせるのでしょうか?

牧:博報堂では、「生活者発想」ということを、どのような局面でも重視しているのですが、子どもができてから、生活者視点の幅が大きく広がったと感じています。子どもができる前は、会社、飲食店、自宅の3拠点程度が生活の中心だったのですが、子育てをするようになった途端に、行政の窓口、児童館、図書館、保育園、学校、病院、アフタースクール、習い事の場などなど、関わる場所がすごく増えました。見聞きした組織、というだけでなく、実際に利用し、他の利用者らと会話する中で、それぞれの役割の本質や、親や子どもがその場所に対してなにを求めているか、という本音が見えてきます。実際に生活者としてそれぞれのタッチポイントを利用した感覚を持ち、なおかつ、こそだて研の調査データから定量的な意見を把握することで、定量・定性両面で、深く生活者の発想を理解できる気がします。たとえば、「習い事」をテーマにしたとき、こそだて研の調査でも「英語」に次いで「水泳」が人気であることがわかりました。将来に役立ちそうな「英語」と違って、水泳がなぜ人気なのか?と一見不思議なのですが、調査アンケートの自由記述や、実際に自分の周辺のママ友の声として「バスで送り迎えしてくれるから、親に負担がかからない。それどころか、自分の自由な時間が確保できる」という、水泳歓迎の背景がわかります。こういったことから、習い事や学習サービス系クライアント業務においては、「習い事=ママの負担」ではなく、「習い事=ママの自由時間確保」になるほうが、ウケが良いでしょう、という提案ができます。

数字として知ってるだけじゃなくて、ちゃんと使ってるからこそですよね。

牧:子育てをしていると、生活全体がネタ探し感はあります。子育ての「あー困った!」という時の解決策が、ネットで調べていてもどうやったってたどり着けない。そもそも子育てをしていなかったら、そんなニーズがあることすら思いつかない。実体験があるから、困っているママ・パパの気持ちが切実にわかります。

実際、ママたちはどういうところから情報を収集しているんでしょう?

亀田:行政の広報誌、町内会の掲示板などを参考にしているママは多いです。それと、ベテラン保育士さんや、先輩ママなども信頼度の高い情報源ですね。普通にプランニングしてると、広報誌のようなアナログな媒体は選択肢に上がってこないですが、ママは地元や行政の情報にすごく敏感なんです。特に乳児の育児中は、あまり遠くに連れていけないので、近くの窓口がすごく頼りになっています。行動範囲があまり広くないママたちにとっては地域性の高い情報が大切なのですね。

近年、さまざまな育児特化型のWebメディアが出てきていますが、子育て情報は広報誌などのアナログ媒体もまだまだ健在なんですね。

亀田:信頼性の問題ですね。広報誌に限らず、ママ友や近所の人からの口コミなど、案外アナログのほうが、情報への信頼度は逆に上がります。あとは古くからあって馴染みのあるブランドが運営しているWebサイトも信頼されています。老舗ベビー用品メーカーのWebサイトの情報や、老舗オーラルケアメーカーの子ども向けの歯科情報が載っているWebサイトなどは、バナー広告などでの誘引がなくとも、生活者が自分で検索し、情報を求めてやってきているようです。

昨今問題視されている信憑性の話などもありますしね。

亀田:老舗企業だと確実なことしか書かないという信頼感はありますよね。

話を戻しますが、牧さんはクライアントのPR案件のプランニングをされていらっしゃるとのことですが、研究所のデータを、実際に企業への提案にこんな風に役立てた、という事例を教えてもらえないでしょうか?

牧:ママとしての実体験と、研究所で発表した俯瞰的なデータの両面から説得材料にすることがあります。たとえば、こそだて研で実施した調査で、「休日の昼は外食することが多い」と答えたのが、子育て世帯のママの約半数だったというデータがあります。実感値としても、休日の朝昼晩のご飯をすべて用意するのは大変じゃないですか。ただ、夜の外食は子どもの生活ペースを考えると、簡単には行けない。一番外食しやすいのが、実は昼なんですよね。こういった実感値と、定量的な数字を基に、クライアントに対して「休日の昼はファミリー外食のチャンスです!」といった提案をしたことがあります。

現業での仕事にも研究所での経験が生きているんですね。

牧:私はPR部門に所属しているので、企業のCSRやCSVに関する相談を受けることがあります。社会の課題やテーマに対して、企業はどう向き合うべきか?という議論になる訳ですが、実はこうした社会課題の8割ぐらいが子育て家族になにかしらで絡んでいると感じています。

どういうことでしょうか?

牧:たとえば、今話題の「働き方改革」や「女性活躍推進」、さらには日本が抱える大きな課題の1つである「少子高齢化」などは、すべて子育てと切り離すことができないものだと言えます。いじめはもちろん、フードロスやダイバーシティなども、“教育”という視点で子育て家族の枠で捉えることができます。このように子育て家族の課題やテーマを研究することは、社会全体の課題を理解することにつながります。

また、こそだて研での活動を通して、ママ・パパ達のまさに今の気分を知ることができます。以前、「ママのストレスとトキメキ調査」という調査をおこないました。「ママのストレス」についての調査自体はよく見かけますが、今の空気感だと、それにプラスして、「ママのトキメキ」を入れたほうが良いのでは、と研究所のメンバーで議論がなされました。そして調査結果をリリースしたところ、やはり「トキメキ」関連での反応が多数でした。育児にまつわる空気感は目まぐるしく変化していて、少し前までは「イクメン万歳!」みたいな雰囲気でしたが、今では「イクメンという言葉をなくしたい」といった意見も見られます。企業がブランディングの一環で、子育て関連の話題を使ってアプローチをしても、一歩間違えると炎上してブランド毀損になってしまう可能性もあります。“変わりゆく空気感を日々把握しておく”ことが共感される企画を考えるために大事だと考えています。

こそだて家族研究所の今後の展開について教えてください。

亀田:今後、日本では「標準世帯(夫婦二人と子ども二人の世帯)」は減って、高齢夫婦世帯・単身世帯やDINKsなどが増えていきます。家族の形が変化し、多様化している現代において、ともすると、「子育て家族」は少数派になっていく。だからこそ、これからの子育て家族とそれを取り巻く社会がどう変わるのかを見通して、幸せな「子育て家族」のあり方を提案しながら、生活者や企業、行政などのお手伝いをしていきたいと考えています。BaBUのころに「ポケッツ!」という書籍を出したのですが、今後は、一般的に言われる「シックスポケッツ」に加えて、さらに多様な人が子どもや子育てに関わるようになって、新たなマーケットが拡がるのではないでしょうか。

「シックスポケッツ」とはなんでしょうか?

亀田:両親と双方の祖父母、合わせて6つの財布から子どもへの出資が見込まれることです。もはや核家族のなかだけで子育てを完結できなくなりつつある今は、子どもにとっての叔母や叔父が面倒をみてくれたり、子どものいない友だちが世話してくれたり、園や学校、地域の人が見守ってくれたりと、いろいろなパターンが広がっています。そういった視点を持つことで、子育て家族だけにとどまらず、新しい社会や生活者の姿が見えてくのではとも考えています。

家族のあり方が多様化するなかで、今後、子育て家族はどうなるとお考えでしょうか?

亀田:2000年代以降に社会人になったミレニアル世代が、そろそろ家族を持ち始める年齢になり、今後の子育て世帯の中心的な世代になってくるのですが、このミレニアル家族について2016年に博報堂買物研究所と共同研究をしました。まずミレニアル家族の特徴としては、デジタルネイティブで、男女の平等意識があり、非常に幸福感が高い。またこの世代は、夫婦間での家事分担率も高くて、買物行動においても夫婦で一緒に買物に行くし、買うものに対して意見もするという特徴が見えてきました。パパも世帯消費に関与しているのですから、マーケティングやコミュニケーション施策を考える際にも考慮する必要があるでしょう。ただ、忙しい人が多いからか、「決まったものを繰り返し買う」という消費傾向が強く、買う前にかなり情報収集をして、比較して、一度決めたら、リピートしていくという側面もありました。

最初に競合ブランドを選ばれてしまうと、入り込む余地がないということですね。

亀田:そうなんです。逆に言えば、リストに入りさえすればヘビーユーザー化する優良顧客の可能性が高いので最初の検討段階でのアプローチが大事だと思います。また子どもの成長に応じてライフスタイルが変化するタイミングもブランドスイッチの可能性が高いでしょう。

牧:ほかには、偏らない、頑張りすぎない、あえて楽しむ、というのがミレニアル世代の特徴として見えてきました。「偏らない」というのは、夫婦・家族間や、仕事と子育ての間で偏らず柔軟に分担しあう。「頑張りすぎない」は、自分たちなりの基準で優先順位を決めて、やらないと決めたらやらずに済ませたり、任せられるところは代行サービスやロボット掃除機に代替したりする。「あえて楽しむ」は、毎日大変な家事・育児だからこそ、そのなかにちょっとした楽しみ方を見つけて楽しみながら上手にこなす。こういった考え方をきちんと見極めないといけないと感じています。こうしたリアルなママ・パパ達の感覚をキャッチして、共感されるコミュニケーションをクライアントへ提案していくことが、自分に求められていることだと思います。

世代ごとの生の情報をつかみ、クライアントワークへ還元していくということですね。お話ありがとうございました!

※2018年3月に取材した内容を掲載しています。

[PROFILE]亀田 知代子(かめだ・ちよこ)

株式会社博報堂
こそだて家族研究所 上席研究員
外食、アルコール飲料、トイレタリーなどのマーケティング戦略立案や商品開発を担当した後、研究開発局にて、企業や団体の環境・社会コミュニケーションに関する研究や生活者研究などをおこなっている。長女の育児休業から復職した2012年より「こそだて家族研究所」に参画。現在、小1と年少児の2児の母。
※所属は取材当時のもの

[PROFILE]牧 志穂(まき・しほ)

株式会社博報堂
PR戦略局 コーポレートPR部 PRディレクター
こそだて研究所主要研究メンバー
2000年博報堂入社。2004年よりPR職として、多数のマーケティングPRや企業広報活動サポート、トップエグゼクティブ向けのコミュニケーショントレーニングに携わる。2009年に長女、2014年に長男を出産。2回の産休・育休・職場復帰、育児と仕事の両立・小1の壁など、育児を中心としたさまざまな経験を活かして、子育て関連ブランドのPRにも多数関わっている。
※所属は取材当時のもの