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凸版印刷の「人間尊重」を土台にした働き方【変わる企業 変わる働き方】

家庭と仕事の両立には不安がつきまとうものですが、今、多くの企業で育児や介護と仕事の両立を支えるための人事制度が用意されているのをご存じでしょうか。働く人一人ひとりのニーズをくみ取り、多様な働き方が選べるようになっていると聞くけれど、実際は…? そこで、気になる企業の人事担当の方に、働くママを支援する取り組みについて取材しました。第2回は、凸版印刷です。

凸版印刷の取り組み

「TOPPA!!!TOPPAN」のCMでおなじみの凸版印刷は印刷業界の最大手企業です。私たちの生活に欠かせない印刷物のみならず、マーケティング支援や、証券印刷で培った高度なデジタル・セキュア技術を活用したサービスなどを提供する「情報コミュニケーション事業分野」、パッケージや建装材などを手がける「生活・産業事業分野」、半導体関連製品やディスプレイ関連製品を手がける「エレクトロニクス事業分野」、と多方面に及ぶ事業領域を展開しています。

2023年3月末現在の従業員数は1万843人。1900年の創業時から「人間尊重」「企業は人なり」という信念のもと、従業員を会社の重要な財産である「人財」と捉え、多様な人財が個々の属性や価値観の違いを認め合い、その能力を生かして互いに高め合える環境づくりを推進しています。

大きな会社ともなると、育児と仕事を両立するための制度はあっても、個別の事情に合わせた使い方は難しそう。勝手にそう思ってしまうところですが、ダイバーシティ推進室の馬渕聖子さんのお話は、少し意外なものでした。

「当社では、『働く気持ちを支援する』ということを制度のベースにしています。だから、ワーキングマザーだけでなく、ワーキングファーザーや介護をしているビジネスケアラーなど、多様な状況にある誰もが働き続けられるように支援しています。またその一方で、従業員が自律的に、業務量や業務時間を調整していく判断をしながら、生産性高く働いていくことを推奨しています」

凸版印刷 人事労政本部ダイバーシティ推進室 兼 労政部 課長 馬渕聖子さん

自律的な働き方を実現するための柔軟な勤務制度を用意

労働基準法や育児・介護休業法で定められている休暇・休業制度に加えて、独自に従業員支援のための働き方や勤務制度を整える企業は少なくありません。そこで、凸版印刷独自の制度について、どのようなものがあるのか、その中身をいくつか聞いてみました。制度によっては、勤続年数など同社が規定する利用条件を満たす必要はありますが、かなりきめ細かく、多様な状況に対応することができそうです。

◆育児スタートアップ休業
2022年10月から創設が義務付けられている「出生時育児休業」、通称「産後パパ育休」と同様の制度です。男女を問わず、凸版印刷では労使協定を締結して休業中でも一部就業可能にすることで機動的にお休みが使えたり、雇用区分にかかわらず全員が取得できたりする休業制度にしています。

◆出産を機に退社する社員に対する再雇用制度
いったん育児に専念した後にまた働きたいという気持ちを持っている社員は、生後8週目までに登録してもらえれば、再雇用により復職可能となる制度です。今でこそ産休・育休を取得することが普通になりましたが、運用開始当時は、まだ出産を機に退職する社員がいたためで、これまで7名がこの制度を利用して復職したそうです。

◆ストック休暇
通常は2年で失効してしまう年次有給休暇を、ストックしておける制度です。開始当初は、病気やケガの療養でまとまった期間の休暇が必要な場合に利用する制度でしたが、時代に合わせてその中身も変化。子どもの看護や家族の介護、不妊治療、自然災害や感染症による休校・休園等も取得事由の要件に追加されました。

◆育児のための勤務特例措置
勤務時間短縮や時差出勤のほか、1カ月単位の変形労働時間制など。勤務時間短縮は、子どもの成長や業務量に応じて短縮する時間を15分間単位で見直せるなど、柔軟な運用が認められているそう。固定的に運用するよりも自分自身で時間の制約を調整できることで、より自律的に働ける環境を提供しています。

また、2023年7月から、「スマートワーク勤務制度」の中で、選択的に週休3日で働ける制度に改定し運用を始めているということ。スマートワーク勤務制度は、始業・終業時刻と勤務時間を自分で設定できてコアタイムを設けないフレックスタイム制度のことで、勤務0時間の日を作れるようなイメージだそう。こちらも固定的でない分、利用しやすそうです。

働き続ける気持ちをつくるためのサポートも大事

新型コロナウイルスが感染症法上の「5類」に引き下げられ、日常が戻ってきましたが、リモート端末が配備されたり在宅勤務が引き続き認められたり、コロナ禍前に比べて働きやすさが格段に増したという会社も多いと思います。とはいえ、制度がすべてを解決してくれるわけではありません。そこでトッパンでは、制度以外にどのような仕事と育児の両立支援があるのか、馬渕さんに教えてもらいました。

「12年前、私が育児休業から復職した際に、まず初めに上司に言われたのが、『労政部の中で育児をしながら時短で働く人はあなたが初めてです。これからは制度をもっと充実させていかなければと考えているので、自分の経験を生かして、考えてみてください』ということでした。私が復職した時にも、世間の水準を上回る制度があって、これだけあれば私でもなんとか両立できるだろうと思っていたのですが、大間違いでした。制度以外の部分で、もう無理かなと思うことがいっぱいあったんです。他の人はどうしているのだろう? こんなことでつまづいているのは私だけかな? そう思った時に、社内外の同じように働きながら子育てをしている人の話を聞いて、職場の中で一人ひとりが試行錯誤してやっていくよりも、ある情報や声を横につなげてネットワークをつくっていくことで、働き続ける『気持ち』を支える仕組みができるんじゃないかと思いました」

そうやってできたのが、育児と仕事を両立しながら働く社員の心を支える「はぐくみプログラム」という施策です。具体的には、次のような取り組みを継続しています。

◆はぐくみアートサロン(2012年度より実施)

トッパングループである芸術造形研究所の「臨床美術」プログラムを活用し、小さなお子さんでも楽しめるアートプログラムを子どもと一緒に楽しんでもらいながら、育児休業中の社員同士が交流できる場。悩み事を話したり、会社で起こっていることを共有したり、制度の使い方を紹介したり。毎年1月下旬から3月中旬に開催していて、育休社員の復職に向けた不安の解消にもつながっています。以前は東京をはじめ各地にある事業所内で開催していましたが、コロナ禍でオンライン化。全国の育児休業中の社員がオンラインで集合し、参加しています。

◆はぐくみセミナー(2013年度より実施)

職場全体で、仕事と育児の両立について学び、理解を深める場です。ここ数年は、管理者向けのパートと誰でも参加できるパートの二部構成で実施しています。最近では男性社員の育児休業に関心が集まっているため、管理職向けのセミナーでは、育児休業を取得した男性社員とその上司に登壇してもらい、事前準備や取得後にどのような働き方をしているのか、マネジメントのポイントなども話をしてもらっているそう。

また、育児期社員のパネルディスカッションでは、男性で育児休業を比較的長い期間取得した社員をパネリストに選び話を聞いたりしているのだそうです。育休取得者だけでなく、マネジメントする上司にとっても、経験者の声が聞けたりマネジメントの手法が学べる機会は貴重かもしれません。身近な上司も同じ知識があれば、いろいろ相談もしやすいですね。

◆はぐくみサークル(2014年度より実施)

働き始めても、日々、仕事と育児の両立の悩みは尽きないもの。子どもの成長と共に悩みの中身も変わっていきます。そこで始まったのが、同じ育児期の社員を少人数のグループにして、お昼休みにざっくばらんに話し合う活動。仕事と育児に関する悩みの相談や、両立のための工夫などを共有する社員同士のつながりがここで生まれています。なお、今は参加者の半数が男性で、ママ社員から話を聞いて「妻はこんなふうに思っていたのか」と気づいたり、逆に女性社員が「夫はこんな悩みがあったのか」と知ったり、育休取得経験者の家族とこれから育休を取得する家族がつながったりする場にもなっているそうです。

◆はぐくみガイドブック

どのような制度があるか、どういうタイミングで手続きや作業が発生するのかといった育休取得者向けの情報、そして復職前のコミュニケーションのポイントといったマネジメントの手法などのマネージャー向けの情報を、まとめてガイドブックにして、ポータルサイトで紹介しています。各事業所にダイバーシティ推進委員が配置されており、要望があれば出力して渡したり、休業中の社員も見られるサイトへ掲載するなど工夫しています。

声を聞き、対話することがお互いの理解を深める

制度だけでなく、働き続ける心のサポートも馬渕さん自身の実感と経験が反映されているからか、仕事と育児を両立したい社員に寄り添うものになっていると感じます。会社がこんなにきめ細かくサポートしてくれたら、なんだか頑張れそうですね。念のため、聞いてみました。どうして、こんなに必要なサポートがわかるんですか?

「声を聞く機会をいろいろと設けています。『はぐくみプログラム』の中で寄せられた声や要望を拾って制度化に役立てているほか、労使『働きがい』推進委員会という場を設けています。労使協議といえば、必ず議事録を取って、会社と労働組合が話した内容や約束をきちんと決めることが多いと思いますが、ここでは、本当に労使がお互いの立場を超えてざっくばらんに意見交換をして、その場で出たアイデアベースのトピックを話し合い、必要があれば次のステップへ進める取り組みをしています」

2022年度は男性の育児休業取得促進をテーマに、2023年度は女性活躍促進をテーマに、各事業所で『働きがい』推進委員会を開催し、事業所ごとの課題や、取るべき施策について検討・実施したということ。事業所ごとの構成員の特色や地域性を踏まえながら企画をするとあって、かゆいところに手が届く、実効性のある施策をやってくれそうです。

「育児休業ってイベントのように捉えられることもありますが、その後も育児が続いていくものなので、男性であっても女性であっても、子どもが生まれるということは、働き方を見直す1つのきっかけになると思います。今現在の働き方についてどういうふうに思っているのか、上司と部下の話し合いの機会が増えていて、互いにすり合わせをしていこうという意識が全社的に根付いてきていると感じます。育児に限らず、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する上でも、たゆまぬ対話をすることでお互いを理解していくことが重要だと考えています。2022年度は、社内でダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査も行っていて、経年での変化も見ていきながら、どういうことをするとみんながもっとダイバーシティについて理解が深まるのかについて検討していきます」

全社的に見れば小さな声や要望かもしれませんが、くみ取ってくれる人がいると思えるのは、とても嬉しく、支えになるものです。制度やルールに人を当てはめるのではなく、人を起点に制度やルールを見直し更新してくれる、しかもスピード感を持って対応している様子が伝わってきて、とても頼もしいと思いました。ありがとうございました。


【インタビュアー】シキノハナ

編集者・ライター 兼 華道家。東京都出身。ビジネス雑誌の編集長を経て、複合サービス企業へ転職。約16年間にわたり、広報を軸とした企画業務に携わる。現在はシキノハナを主宰。仕事に、家事に、育児に…と、忙しい女性を心からリスペクトし応援する。
<ホームページ> https://shikinohana.com/

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