違う世界で、違う頑張りをできるのが嬉しい―コクヨ デザイナー 浅野里紗さん【輝く!ママクリ】
1 経歴や職場・家庭の状況は?
「キャンパスノート」や「カドケシ」など、誰もが一度は手にしたことのある文具でおなじみのコクヨ。創業は1905年と歴史があるのに、なんだかいつも新鮮なイメージがある企業です。コクヨの通販「カウネット」をオフィスで利用したことのある方も多いのではないでしょうか。加えて、オフィス家具の製造や販売、オフィスの空間設計など、ワークスタイル全般を支える法人向けサービスを主要事業の一つとして展開しています。
今回は、コクヨでワークプレイス空間のデザイナーとして活躍する浅野さんを取材しました。まずは、ご自身のご経歴や育児休業の取得状況について、お話を伺いました。
――ご経歴について、簡単に教えてください。
浅野:コクヨには、2010年に入社しました。当初から空間設計の部門に配属されて、現在に至ります。最初の1年半は、働き方や働く場のアンケート調査や分析、ファイリングなどのコンサルティングをしていました。その後、現在まで、設計を担当しています。
これまで50人規模から1000人規模まで、大小さまざまなオフィスや食堂、ショールームやフィットネスジムなど、“働く”や“暮らす”に関わる空間設計やそのディレクションを手掛けてきました。育休からの復職後も、コワーキングオフィスや300人規模のオフィス移転案件について、主担当として設計を行っています。
――お子さんの出産時期と育児休業の取得期間を教えてください。
浅野:2020年に出産し、2022年に復職しました。育休期間は1年8カ月ぐらいで、割と長めに取りました。
――保育園には、0歳児のほうが入りやすいというお話も聞きます。1歳児まで入園を待つことに不安はありませんでしたか。
浅野:心配でしたが、子どもが小さい時は今しかない、できるだけ長く一緒にいたい、そう思いました。入園はできたのですが、1歳になっていると敏感に環境の違いを感じ取るためか、保育園から帰宅してからの機嫌がめちゃくちゃ悪いということが、しばらく続きましたね。
――復職の際の周囲の反応はいかがでしたか。
浅野:育休に入る前の部署にそのまま復帰したのですが、おかえりと優しく迎え入れてもらいました。設計の部門には割と先輩ママも多くて、気にかけてくださる方も多くいたのが嬉しかったですね。
2 仕事のやりがいや工夫、働き方については?
続いて、空間設計のお仕事の内容ややりがい、そして現在の働き方について伺いました。私が会社員だった頃、オフィスが古い社屋から新築のビルへ移転したことがありました。新しいオフィスは単に設備が新品というだけでなく、目指す働き方や会社の思いが込められている場になっていて、モチベーションが上がったことを思い出しました。今回、取材で訪れたのは東京・品川にあるコクヨの働き方の実験場「THE CAMPUS」。自律的に働く浅野さんやコクヨ社員の方たちの姿を垣間見ることができました。
――就職の際に、コクヨを選んだのはどういった理由でしたか。
浅野:大学と大学院では建築学科で建築を学んでいました。その場所にどんなシーンを生むかとか、使う人のアクティビティを考えるのが好きだったので、就職先はインテリアの分野に絞って考えていました。
コクヨは、もともとは文房具の印象がすごく強かったのですが、就職活動中にオフィスを中心に空間設計もしていることや、結構、チャレンジングな取り組みをしていることを知りました。例えば、今ではもう一般化している「フリーアドレス」も、コクヨでは30年以上前から実践しています。また、50年以上前から自分たちのオフィスをショールーム化して「ライブオフィス」として公開し、自社製品を使って働く姿をお客さまに見ていただいていました。私の就活中は「エコライブオフィス」といって、屋外でも働けるような環境を発信していて、そこで自転車を漕いで自らが発電し、PCに給電しながら働く姿などもあり(笑)。面白くて、いろんなことにチャレンジさせてもらえる会社かなと思ったのがきっかけでした。
――現在担当している空間設計の仕事は、具体的にどんなお仕事ですか。
浅野:クライアントの求める場を構築するためにコンセプトを定め、レイアウトや内装の素材や家具、照明、設備などを総合的に設計・構築して、お引渡しする仕事になります。新築のビルの場合、建設中の段階からお話をいただくこともあります。プロジェクトの期間はさまざまで、長いものになると2年とか。また逆に、短い場合は4カ月ということもあります。家具の配置一つとっても、コミュニケーションの取り方などアクティビティへの影響は大きいので、どういう働き方を実現したいか、クライアントと議論を重ねながら丁寧に組み立てていきます。
デザイナーというと事務所にこもって黙々と作業する…というイメージがあるかもしれませんが、意外とクライアントの前に立ってやりとりすることが多い仕事です。定例ミーティングの進行や、プレゼンテーションやワークショップも行います。
――仕事のやりがいや面白みは、どんなことですか。
浅野:クライアントからいろいろな要件や要望が出てくるのですが、それが最終的には一つのリアルな場として形になることが嬉しいです。そしてそれを、お客さんが喜んでくれるというのもやりがいにつながっています。
働く場としてはすごくよい環境に置いてもらっていますし、育休中と比べると、仕事としてデザインに没頭できる時間が持てるというのも、育児と仕事という2つの違う世界で違う頑張りができるという意味で嬉しいところです。
――仕事と育児の両立で大変なことは、どんなことですか。
浅野:職場に復帰して半年間は、1週間か2週間に1回は子どもが体調を崩して、急な呼び出しで早退したりお休みしたりしなくてはいけなくて…。クライアントの前に立つこともあり、その辺は少しピリピリしましたね。特に大事な顧客対応の日は、夫にあらかじめ伝えておき、先手を打って万が一の場合のフォローをお願いしたりしています。
――会社の人事制度やサポートで役に立ったものはありますか。
浅野:助けになっている制度はいくつかあります。時短勤務は5パターンから選択でき、週5日勤務の7時間・6時間、週4日勤務の8時間・7時間・6時間の中から、月単位で選べます。私は、今は週5で1日7時間勤務にしています。またフレックスタイム制度もあるため、急な子どもの呼び出しが多いので助かっています。
また、在宅・出社の頻度を3パターンから選べます。出社中心型の人、バランス型の人、在宅中心の人、といった形です。私は上司と相談して在宅中心に決めています。とはいえ、出社する頻度などは特に決まりはなくて、週4日出社している時もあれば、1カ月くらい行っていない時もあります。
在宅とか時短とかいうと周囲に対してちょっと申し訳なさがあるのですが、きちんと制度があることで、会社として尊重していただけている感覚がありますね。すごくありがたいです。
――働き方について、周囲とはどういう調整を行いましたか。
浅野:育児休暇に入る際は、チームで案件に取り組んでいて、チームメンバーに業務内容を把握してもらっている状態だったので、スムーズに移行できました。今も、できるだけチームを組んで対応できるような体制をリクエストしています。
先日、時短で働いている設計部門のメンバーが何人か集まって、新入社員たちと話をする時間を設けました。新入社員にとって時短の働き方は、よくわからない得体が知れないもののように見えるので(笑)。制度や働き方について、会話したり共有できる機会をつくることも大切かなと今は思っています。
――育児や家事の経験が、仕事に生きたと思うことはありますか。
浅野:私自身が時短の働き方になり、効率化につながる情報の必要性をすごく感じていたこともあって、そういった課題の解決に向けて社内プロジェクトを立ち上げました。まだ発足したばかりですが、デザイナー向けに、デザインクオリティの向上や、効率性アップにつながる情報を整理し、発信していきたいと考えています。
時短で働いていると、以前のように、複数の案件を同時に対応する…という働き方はできません。だからその分、会社や周囲のメンバーに、何か別の形で貢献できるものがあればいいなと考えています。
3 日々の暮らしの中で大切にしていることは?
時短勤務について、新入社員にまで理解を求めて会話する場を自ら設けるなんて…! 話を聞いた若手社員は、ママ社員をより身近に感じることができて、さぞかし安心したのではないでしょうか。苦しくならないように、自ら機嫌を損ねないように、そして自分で自分を縛らないように。働くママの生きた知恵が、浅野さんの普段の生活の中にはありました。
――ご家族での家事分担はいかがですか。
浅野:分担は、今は決めていません。育休中は、私が全面的にやっていましたが、復職してからはできる方がやるといった感じです。共働きになった瞬間から、どうしてもできないことがいっぱい増えたので、夫とは平等に、タッグを組んで取り組んでいる形です。そのため、忙しいからこの日はできないということを、正直に言うようにしています。とにかく夫とのスケジュール調整が大事なので、カレンダー共有アプリを使っています。そこに事細かに、早朝家を出るとか会議で遅くなるとかいったことを入れています。
――普段の生活の中で大切にしているのはどんな点ですか。
浅野:1つは、周囲に助けてもらうことです。仕事と育児をやってみると、1人ではどうにもならないことが本当にあります。無理をすればできなくはないかもしれませんが、すればするほど苦しくなってしまうので、事情を話して会社でも家でも助けてもらい、きちんと感謝することにしています。
2つめは、自分でご機嫌をつくることです。毎朝聴いているラジオ番組で「ご機嫌は自分でつくるもの」とパーソナリティーの別所哲也さんが言っていて、まさにそうだなと思っています。どうしても1人の時間がほしい時は保育園を少し延長してカフェへ行ったり、在宅の時は少しだけ贅沢なおやつを食べたり。
それと、「絶対にこうしなきゃ」ということにとらわれないようにしています。子どもがお風呂が嫌だとか言ったら、本当は入ってほしいんですが、体を拭くだけにしたり、夕食がつくれない時はもう出前にしたり。自分に厳しくしすぎないように心がけています。
――周りの人がご機嫌をとらなければならないシーンをつくらないというのは、人と連携していく上でも、すごく大事なことですね。ありがとうございました。
【執筆者プロフィール】シキノハナ