「共働きの子育ては難しい」を受け入れて、心のゆとりを手に入れる―バンダイ 広報 渡邊奈津美さん【輝く!ママクリ】
1 経歴や職場・家庭の状況は?
バンダイは、「夢・クリエイション~楽しいときを創る企業~」を企業スローガンに掲げ、玩具やカードゲーム、アニメなどの商品を展開する企業です。創業から70余年、今やお子さまだけでなく、子どもの頃に商品で遊んだ記憶を持つ大人にとっても身近な会社と言えるでしょう。バンダイの広報担当として活躍する渡邊さんに、まずはご自身のご経歴や育児休業の取得状況について、お話を伺いました。
――ご経歴について、簡単に教えてください。
渡邊:2014年に新卒でバンダイに入社しました。入社から5年間はトイ(子ども向けのおもちゃ)部門で、卸売企業や小売企業に対する法人営業を担当しました。東京での商談がメインでしたが、北海道・仙台・静岡・関西エリアなどに出張して商談を行うこともありました。
2019年に広報チームに異動となり、その年に、妊娠・出産をしました。
――お子さんの出産時期と育児休業の取得期間を教えてください。
渡邊:2019年12月に出産して、2021年4月に復職しました。育休期間は約1年半で、子どもが2週間の慣らし保育を終えたタイミングで職場復帰しました。
――復職時はどんな心境でしたか。
渡邊:全社的に見れば、子育てをしながら働く多くの社員がいて、育休からの復帰率も高いので、育児と仕事を両立することは自然に受け入れていました。それでも、子どものことも仕事のことも不安だらけでしたね。
保育園を決めるにあたっては、コロナ禍中だったため、施設内の見学ができず、園庭でお話を聞いただけ。保育園での実際の生活が具体的にはわからないまま預けることになり、心配でした。仕事の面では、勤務時間を通常より1時間短縮して16時半に退勤というスケジュールだったのですが、これで仕事が本当にこなせるのかと不安でした。その一方で、ママ友から16時には保育園にお迎えに行くと聞いて、予定していた17時半のお迎えでは遅いのか…と考え込んでしまいました。
ただ周囲の人たちは温かく迎えてくれたという印象です。業務量や打ち合わせの時間帯も配慮してもらえて、すごくありがたく思いました。
2 仕事のやりがいや工夫、働き方については?
続いて、お仕事の具体的な内容ややりがい、キャリアについてのお考えを伺いました。バンダイは、メディア露出の多い会社というイメージです。加えて、第1子ということもあり、仕事と育児の両立はそんなに簡単ではないのでは…? それにもかかわらず、仕事のやりがいをとても楽しそうに語る渡邊さんの様子が、印象的でした。
――就職先にバンダイを選んだのは、どういった理由でしたか。
渡邊:大学時代に4年間、予備校でアルバイトをしていました。その時に、人は「夢」があると、それが原動力になって過酷な受験勉強も頑張れる、そして乗り越えていけるのだと実感しました。それで、人に「夢」や「憧れ」、「ワクワク」を提供できるような仕事か、もしくはアルバイトをしていた予備校のように、その人の夢を後押しするような仕事がしたいと思いました。
私自身、子どもの頃にバンダイの商品で遊んでいましたし、買えなかったけど憧れていた商品もありました。そういうワクワクを届ける、女の子向けの玩具事業系の商品企画・開発をしたいなと思っていました。
就職活動では予備校とバンダイの両方から内定が出て、どちらに入社するかすごく悩みました。バンダイを選んだのは、採用試験の選考過程で、今まで出会ったことのない面白い人たちが多くて魅力的だなと思ったのが、決定打となりました。
――現在の広報の仕事は、ご自身で希望したのですか。
渡邊:そうです。トイ事業部内の営業担当として5年間働いていて思ったのが、事業部制・縦割りの組織体制の中では他の事業部の仕事内容がわからないということ。そこで、一旦全社の動きが見られる部署で働きたいと思い、広報を希望しました。
――現在担当している広報の仕事は、具体的にどんなお仕事ですか。
渡邊:社内報の作成と社外広報を、主に担当しています。
バンダイ広報では紙・Web・動画と3つの社内報を運営しています。このお話をするとちょっと驚かれることもあるんですが、私が担当している20分弱の映像社内報は月に1回制作し放送しているんです。2班体制なので隔月にはなりますが、企画から撮影・編集・放送管理までを全て担当者が制作会社と共に対応するので、タイトなスケジュールで業務を行うことがあります。
映像の構成は、(1)トップメッセージ、(2)特集、(3)情報コーナーの3部です。最近、とても社内の反応がよかった特集がありました。「AIをより活用して業務の効率化を図っていきましょう」というメッセージの回で、ストレートにそう言うだけでは社員が興味を持ちにくいと考え、グループ会社のバンダイナムコ研究所の技術を活用して、社長をAI化したんです。社長の全身をスキャンして、30分間の肉声をAIに学習させ、姿や声までAIで制作した映像をつくったら、社長にも社内にも面白がってもらえました。
広報にいると他の部門やグループ会社の情報も入ってきます。グループ会社の技術力を活かせる企画ができたのは、広報だからこそだと思います。
社外広報としては主に、トイ事業のプレスリリースの作成や取材の立ち合い、メディアアプローチなどを行っています。毎年、新商品が1万点ほど発売されるので、どの商品が話題になるか楽しみですし、すごく新鮮な気持ちで働けています。
――仕事のやりがいや面白みは、どんなことですか。
渡邊:エンターテイメント企業ならではの視点を大切にしていて、それにいい反応が返ってきたときにはやりがいを感じますね。例えば、社内報では、「社員の学びや業務に役立つ情報を発信する」という軸にプラスして、情報をより面白くしたり、遊び心を入れたり。そうすることで、自分自身も楽しく制作できますし、視聴後のアンケートでよい反応があると、頑張ってよかったなと感じます。
社内報とはいえ、3000人ほどのグループ社員が視聴する訴求力の高いものなので、企画段階から広報チームをはじめとする関係者に承認をもらう必要があります。社外の有識者に出演いただきたいときなどは調整が大変ですが、社員にとって特別なものがつくれるように努めています。
一方で社外広報の業務では、メディアからの要望と、会社の意見や要望をうまく調整していくというのが、腕の見せどころだと思っています。また、もともと自社の商品や社員が好きなので、取材の立ち合いで、社員が商品のこだわりや企画意図を説明しているのを聞くのは楽しいですね。記者の方から「面白いですね」と言われるとすごく嬉しいです。
――育児や家事の経験が、仕事に活きたと思うことはありますか。
渡邊:情報発信する時に、ママの立場にだったらどう受け止めるか、育児と仕事をする女性としてどう思うかというような視点が増えたのは、すごくよいと思います。
また、お子さま向けの商品をつくることの多い会社なので、モニターを依頼されることがよくあります。例えば、開発中の商品が実際に3歳児でも遊べるのか、手に持てるのか、どの商品のどの遊びに夢中になるのかといった情報収集に協力しています。
――仕事と育児の両立で大変なことは、どんなことですか。
渡邊:バンダイは在宅勤務ができるのですが、夫は仕事柄、在宅勤務ができないので、子どもが急に体調を崩したりすると、調整するのはだいたい私になります。でも在宅勤務だとしても、子どもが一緒にいると全然仕事にならないこともあります。毎回有休を取得するのも申し訳ないので、できる限りの仕事はするんですけど…。
本当に大事なプレスリリースを出す日に子どもが体調を崩してしまっても、夫から「調整できない」と言われたら、私が調整するしかありません。子どもを病院へ連れて行き、お薬を待っている間に携帯でメディアからの電話対応をしたこともありました。
正直、不公平感はあります。「あなたも休みを取って調整する努力をしてほしい」と夫に対して怒ったこともありました。当初は本当に私ばかりが調整していたのですが、そうやって何度かぶつかってからは、夫も少しずつ協力的になってきました。
――会社の人事制度やサポートで役に立ったものはありますか。
渡邊:時短勤務とフルフレックス制度ですね。特に職場復帰後1年半くらいは時短勤務で働けたことで、かなり助かりました。また、「出産・子育て支援金」や「就学祝い金」が支給されたのもありがたかったです。「出産・子育て支援金」は第1子・第2子には30万円、第3子以降には300万円が支給される制度です。「就学祝い金」は、社員の子どもが、保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校に入園または入学する際に支給される、バンダイナムコグループ独自の制度です。会社主催の研修やセミナーを通して、キャリア形成について考える機会があるのも嬉しいです。
――キャリアについては、どのようにお考えですか。
渡邊:ママをやりながら役員や次長・課長として活躍されている先輩方の背中を見てカッコいいなと思ってきたので、仕事はこれからも続けていきたいです。
そして、自分自身も仕事を通じていろいろな人に出会ったり、いろいろな経験ができたりするのがすごく楽しくて、やりがいも感じています。そういった意味でも、仕事を続けていきたいと考えています。
3 日々の暮らしの中で大切にしていることは?
現在はフルタイムで勤務している渡邊さん。夫婦で働きながら育児をすることの難しさを受け入れながら、そもそも無理なことを頑張っているのだという前提に立ったことで、逆に1人で抱え込まずに心のゆとりも生まれているようです。
――ご家族での家事分担はいかがですか。
渡邊:最近、家事・育児の所要時間で分担するという考え方に至りました。以前はタスクの数が平等になるように分けていたんですけど、それだと夫はやるべきことをさっさと済ませて休憩している一方で、私は何だかずっと動き回っているなと…。そして、時間で分担しないとだめだなということに気が付きました。
具体的な分担としては、保育園への送り迎えは、自宅から勤務先が近い私がしています。子どもと一緒に帰宅したら、私はすぐに夕飯をつくります。その間に夫が帰宅して洗濯物を畳んだり、明日の保育園の準備をしたりしてくれます。そして一緒に夕飯を食べて、私が洗い物をしている間に、夫は子どもをお風呂に入れて21時半くらいには寝かしつけて。そこからお互いに自由な時間ができます。
育休中は100%私が家事をしていたので、そこからお互いの考え方を話し合い、ぶつかりあいながら徐々に今の形にシフトしていったという感じです。
――普段の生活の中で大切にしているのはどんな点ですか。
渡邊:2点あります。1点目は、周りの人に気軽に相談することです。仕事であれば、上司や後輩、同僚や他部署の社員。子どものことは、保育園の先生やママ友に相談しています。
2点目は、無理しないで余裕を持つことを大事にしています。メディア対応は、商品がネット上で話題になったりすると、翌日までに3~5件の取材依頼が来ることも。そのような状況が発生しても受け止められるように、あらかじめ綿密なスケジュールを立てて余裕を持った進行を心がけています。社内報は制作期間が2カ月ほどあるので、その間のスケジュールを細かく立てて、進捗状況を把握することで、急な業務が発生したとしても慌てずに対応ができます。
職場復帰した時期に、働きながらの育児を私と夫の2人だけでやるのは無理だな、そもそも無理なことをお互いに頑張ってやっているのだなと思いました。毎日の時間になるべく余裕を持てるように、スケジュールや仕事の段取りも先を見据えて、子どもが急に体調不良になっても吸収できるくらいの余裕をつくれるよう努めています。
――ありがとうございました。
【執筆者プロフィール】シキノハナ