子育ての不安も、明るく前向きに仕事に活かす―日清食品 ブランドマネージャー 清水文恵さん【輝く!ママクリ】
1 経歴や職場・家庭の状況は?
日清食品は、世界初の即席麵である「チキンラーメン」をはじめ、「カップヌードル」「日清のどん兵衛」といった誰もが知るブランドや、インパクトのある広告宣伝で、私たちの生活にとても身近な会社です。今回は、日清食品で即席麺やカップスープのブランドのマーケティングを手がける清水さんを取材しました。まずは、ご自身のご経歴や育児休業の取得状況について、お話を伺いました。
──ご経歴について、簡単に教えてください。
清水:理系の大学院を卒業後、2005年に日清食品に入社しました。1年間の工場研修を経て、当時滋賀県にあった研究所に4年間勤務しました。その後マーケティング部へ配属になり、そこからはずっとマーケティングの仕事をしています。
日清食品のマーケティング部は、担当する商品・ブランドごとにグループが分かれています。また、各グループは、リーダーとなるブランドマネージャーが1名、その下のスタッフが4~5名という構成であることが多いです。
その中で、私がブランドマネージャーを務める第8グループは、社内では少し珍しい、女性向けや子ども向け商品を中心に担当しています。ミニサイズの袋麺「お椀で食べる」シリーズやカップスープなど、食事にもう1品足してもらうとちょうどいい商品を扱っています。
2010年にマーケティング部に配属されてからは、第8グループを含むいくつかのグループでスタッフとして経験を積み、また、オンラインストアのお客さまをターゲットにするダイレクトマーケティングの仕事もしました。そして、最新のフードテクノロジーを駆使した「完全メシ」などを扱うビヨンドフード事業部へ異動。2023年、現在のマーケティング部第8グループへ、ブランドマネージャーとして戻ってきた形です。
──お子さんの出産時期を教えてください。
清水:子どもは3人いまして、2015年と2017年と2019年に出産しました。当時はダイレクトマーケティングの担当。ラッキーなことに、第1子出産後に復帰してからはずっと同じ上司でした。出産や育児にとても理解のある女性で、私の仕事内容も把握しているので、休業の前後の引き継ぎの際など助けられました。3回の産休・育休を挟みつつ、6年間をなんとか乗り切りました。
特に第1子の時は、2015年3月に出産したのですが、0歳児枠で保育園に入れず…。どこも待機児童が多かった時代で、早生まれは保育園に入れないと言われていました。1歳児枠でも全て落ちてしまいショックでしたが、自治体の「保育ママ」という、保育士の資格を持った方が自宅などで2~3人の子どもの面倒を見てくれる制度を利用することにして、2016年4月に職場復帰しました。
ただ、保育ママ制度は、預かってもらえる時間が少し短かったり、お弁当を持たせないといけなかったり、保育園よりも親の負担は大きくなります。また当時、会社ではまだ在宅勤務やオンライン会議を利用する人も多くなかったため、時短制度の中でも一番短い10時~16時で働くことにしました。子どもが心配でしたが、ふたを開けてみたら保育ママさんは家庭的な環境の中で自分の子どものように面倒を見てくれて、利用して良かったです。
第2子は2017年7月に出産。2018年4月に長子と一緒に保育園に入れることになり、職場復帰しました。第3子は2019年5月出産だったので、その時も1年弱休んで2020年4月に復帰しました。
──職場復帰の際に、不安はありましたか。
清水:1人目の時は、この先の働き方が見えずすごく不安でした。産休に入る時も育休から復帰する時も、大ごとだと思っていて、丁寧に引き継ぎをしたり、同僚に「休みます」とメールを書いたりしていました。
それが2人目、3人目になると、いい意味であまりハードルも感じなくなり、「やるしかないし、やったらなんとかなる」と思えました。同僚へのメールも、「来月から休みに入るけど、また来年には戻ってくるので、よろしく」と少々ラフになりました(笑)。
また育休中に、育児だけをやっていく大変さを実感しました。育児は、できて当たり前で評価されない。育児だけではストレスをためすぎてしまうかもしれない。育休が楽しかったのは、また仕事に戻れば、こことは違う世界が自分にはあると思えたからです。2つの世界があったほうが、私はバランスが取れると感じています。
──会社の人事制度やサポートで役に立ったものはありますか。
清水:リモートワークができるようになったことです。第1子を産んだ2015年頃、制度やシステムはすでにありましたが、パソコンを会社から持ち出すにも事前申請が必要で、あまり利用しやすくない状況でした。
今はいつでもどこでも仕事ができる環境になり、ありがたいです。また、スマートフォンである程度仕事ができるようになりました。例えば、子どもを連れて行った病院の待ち時間でもメールを返信できるので、本当に助かっています。
育休中にも社員とのつながりがあったことも助けになりました。上司がときどき連絡をくれて、「会社でこんなことがあった」と状況を教えてもらえたり、時には「保育園に受かった?」とこちらの状況を確認してくれたり、復帰に向けてもサポートしてくれました。会社の同期とも情報交換をしていたので、復帰の際に大きなギャップを感じることがなくよかったと思います。
2 仕事のやりがいや工夫、働き方については?
3児のママでありながら、会社では商品のブランドマネージャーという責任の重い仕事を担っている清水さん。多くの部署との連携が必要な仕事を、チームスタッフと協力しながら進めています。さらにはママとしての思いを込めてリニューアルした商品が、この2024年3月に発売になりました。仕事のやりがいや工夫、商品に込めた思いを伺いました。
──日清食品への入社を選んだのは、どういった理由でしたか。
清水:大学と大学院では生物を専攻して研究をしていたのですが、研究成果はすぐにはわからないことも多かったため、自分がやったことが形や数字として見えやすい仕事がしたいと思い、研究の道に進むのではなく就職しようと決めました。周囲には、食品や日用品、製薬のメーカーに就職する友人が多くいました。私自身も、食品は生活に不可欠なもので日常で目にする機会も多いので、食品メーカーはやりがいがありそうだと考え、日清食品を選びました。
また日清食品は、人事の採用担当者がとても明るくて楽しい方で、一緒に働きたいと感じました。仕事は自分の人生の半分くらいの時間を費やすので楽しく働きたいと思い、最後はそこで決めました。今でも、「どうせやるなら、みんな気持ちよく仕事しようよ!」という思いは変わりません。
──現在担当している仕事は、具体的にどんなお仕事ですか。
清水:マーケティング部の仕事は、商品を軸にして、川上から川下まで関わる仕事です。例えば、次にどんな商品をつくろうか企画案を考えたり、商品化するとなったらどんな技術的な開発で時間がどれくらい必要かを研究所と相談したり、価格や販路、発売時期などを営業と相談したり。宣伝部とはどんなプロモーションをするか、広報部とは社外向けの告知をどうするかなど、あらゆる相談をしています。まさに、社内のいろいろな部署のハブ的な役割を担っています。
そして「ブランドマネージャーは、担当商品の会社の社長だ」と日清食品ではよく言われるように、自分のグループが担当する商品のすべてに決定権を持ち、また、方針を決める責任があります。もちろん実際には私ひとりでは決められませんが、さまざまな意見を聞いたり、時には板挟みになったり、考え悩みながら商品開発を進めていくという仕事です。
──仕事のやりがいや面白みは、どんなことですか。
清水:正直、仕事は大変です。子どもが熱を出して、在宅勤務しながら会議に出て、合間に病院に連れて行って…という生活を送っていると、どうしてこんな大変な思いをしているんだろうと、よく考えます。
でも振り返ってみると、商品を世に送り出すこの仕事が大好きなんです。特に今は、女性向け・子ども向け商品を担当していることもあり、私自身の子育て中に大変だったことや、もっとこうなればいのにと思った実体験も活かして商品開発ができるので、仕事は楽しいですし幸せです。
例えば、この「日清マグヌードル」という子ども向け即席麺を、2024年3月末にリニューアル発売しました。30年前に発売を開始したロングセラーで、直近20年はリニューアルのない商品だったので勇気が要りましたが、これで楽になるママが世の中にはたくさんいるのではと考えたのです。
子どもに即席麵を食べさせるのは、親としては「手抜きかな?」と抵抗感がありますよね。でも、とても忙しい中で、イライラしながら夕食をつくるぐらいなら、たまにはこういった商品を利用して楽してほしい。この商品で心に少し余裕が生まれたり、子どもと向き合う時間が増えたりするよう、お手伝いがしたいです。そもそも子どもは麺類が大好きで喜んで食べてくれる子も多いですし、今回は栄養をさらに強化して栄養機能食品にするといった工夫もしています。
こういった思いが、お客さまに伝わればうれしいです。
──育児や家事の経験が、仕事に活きたと思うことはありますか。
清水:子どもが小さかった頃、食事の準備が結構大変でした。しかも、頑張ってつくったからといって、絶対に食べてくれるわけでもない。そういう時の自分の気持ちを思い出しながら、「日清マグヌードル」のリニューアルを考えました。
あとから思えば、1食くらい食べなくても大きな影響はないのでしょうが、当時は「どうしよう、食べてくれない」と心配でした。ただ、追いかけて食べさせるのは自分も大変ですし、子どもに食事を嫌いになってほしくなかった。食事は人生の楽しみだと思うので、楽しい食卓の演出をサポートできる商品をつくっていきたいです。
──仕事と家事・育児の両立で予想以上に大変なことはどんなことでしたか。
清水:子どもがいると思うように時間をコントロールできないこともあります。今も18時には仕事を1回切り上げてお迎えに行っていますし、その中で絶対に終わらせなくてはいけない業務はあります。1日も早く打ち合わせしたいけれど、私が今日は17時に上がらないといけないなど、いろいろと葛藤はあります。何事も、早め早めに進めるように時間を意識して、スケジュールを組むようにしています。
あとはやっぱり、自分ひとりではできないので、チームメンバーを信じて仕事を任せています。チームは若い社員も多く、私とは一番近くても10歳離れているのですが、頼んだら全力でやってくれるし、優秀だとわかっているので、みんなにもっと任せようと思います。
今は男女を問わず、育休の取得をしたり、子どものお迎えがあったり、子どもの体調が悪いときには在宅勤務したりする人が増えました。そのため、会議や打ち合わせは日中に設定するなど、働く時間に制限がある人をサポートするように社内の意識が変わってきました。おかげで私もやりやすくなったところはあります。
──キャリアについてのお考えを教えてください。
清水:私自身、長く働きたいとは思っていましたが、管理職を目指すことやバリバリ働くことを、女性の働き方としてはあまり想像できていませんでした。ただ、出産当時に上司が「なんとかなるから大丈夫だよ。やってみたら」と何でもないことのように言ってくれた言葉は、今までずっと働く私の背中を押してくれています。私自身、根が楽観的なこともあり、子育てと両立しながらでもなんとかなるかと、昨年ついにブランドマネージャーにまでなりました。
今まで、女性のブランドマネージャーはとても少なかったので、もっとママ目線の商品も担当していきたいです。
3 日々の暮らしの中で大切にしていることは?
世の中に、忙しいママ目線でつくられた商品やサービスが増えていくと、きっと男女を問わず、助かる人がたくさんいるのだと思います。今回、取材を通じて特に印象的だったのは、清水さんの笑顔です。話を伺っていくうちに、それが人生を前向きに楽しみたいという気持ちだけでなく、周囲への気遣いでもあることを知りました。そんなふうに、みんなが楽しく幸せになるという思いを持っていること、普段から見習いたいなと思いました。
──ご家族での家事分担は、どのようにしていますか。
清水:第1子の時は、私自身、家事も育児も自分がやらなきゃという思い込みもありました。ただ、第2子、第3子と子どもの人数が増えていく中で、どうやったって夫には助けてもらわなければならないし、彼自身の意識も「手伝い」から「一緒にやらないと」に変わってきた気がします。
今は、保育園への朝晩の送迎もどちらか行ける方が行くようにして、2人で助け合っています。
家事分担は、「なんで私ばっかりやってるの?」と思って、全部家事を書き出して均等に分けようとしたこともありました。でもそうしたところで、そんなに幸せじゃないと気づきました。今はお互いに「ここはやってほしい」とか「この日はやる」と希望をオープンにして、できるところをやっていくことでストレスをためないようにしています。夫は営業職で、商談に行くことも多いのですが、最近は在宅勤務もうまく使いながら家事もしてくれています。
──普段の生活の中で大切にしているのは、どんな点ですか。
清水:笑顔を忘れないようにしています。イライラすることもありますが、笑顔でいると子どももご機嫌だし、チームのみんなも話しかけやすいのではないかと思います。私も普段18時には帰るので、何かあれば早めに言ってもらえるように、常に相談しやすい雰囲気をつくりたいです。
私自身が楽観的で、昔ほど完璧を求めなくなったこともあるかもしれません。むしろ、「求めなくてもいい、100点取れなくても合格できたらいいじゃん」と気づきました。子どもが増えたり、役職が上がったりして忙しくなる中で、割り切ることがだんだんと身についてきたのだと思います。
──ありがとうございました。
【執筆者プロフィール】シキノハナ