ビルコムの共感から社会を変える働き方【変わる企業 変わる働き方】
ビルコムの取り組み
ビルコムは、データに基づくPR戦略立案で、幅広い企業・ブランドを支援するPR会社です。クラウド型の広報・PR効果測定ツール「PR Analyzer®」の開発・提供を含む独自のソリューションで、メディアを活用したPR活動の企画から実行・検証までを一気通貫で支援しています。2003年に設立され、2023年12月末時点の社員数は93名(契約社員・パート・アルバイト含む) 。そのうち女性は59.5% を占め、管理職の女性比率もおよそ43%に上ります。
PR業界といえば、女性が活躍している業界のイメージがあります。そうはいっても実際のところ、出産を経て育児をしながらでも働き続けることができる環境なのでしょうか。人財開発局局長の茅野祐子さんのお話は、少し意外なものでした。
「私は2009年の新卒入社ですが、2011年頃に産休・育休を経験しています。当時、ワーキングマザーとしては社内第2号でした。その辺りから前例ができてきて、今はごく普通に産休に入って、育休後に復帰するという人が多いです。私が人事を担当するようになったのが2021年の後半からですが、その間、妊娠・出産がきっかけで退職した人は思い至らないですね」
2023年12月時点の正社員のみの年代別構成比 は、20代が34%、30代が35%、40代が26%、50代以上が5%。平均年齢34.6歳と、30代・40代の子育て世代に当たる社員もしっかり在籍しています。
「ご存じのとおり、なかなかハードワークな業界ですので、さまざまな制度の利用に加え、現場で助け合うことで続けられているというのが実際かもしれません。けれど、バリバリ働きたい人が育児や介護を理由に仕事から離れてしまう状況ではあるべきでないと、会社としても考えています。エージェンシーの事業ですし、コミュニケーションの業界なので、人とチームの力が重要な業態です。各個人がプロフェッショナルとして長く活躍できるよう、できるだけ社員の力になりたいと考えています」
確かに、部署名にも「人財」の文字があります! それではどのような支援制度があるのか、具体的にご紹介します。
ライフイベントとの両立を支援するビルケア制度
ビルコムでは2024年1月から、社員のライフイベントへのサポートを「ビルケア制度」と名付け、運用しています。運用開始に合わせて、元々、育児中の社員向けの休暇制度などは充実していましたが、より柔軟に働き方を選択したり休暇を取得したりできるよう、既存の制度からサポート範囲を拡張したそうです。
例えば育児中の社員には、「子供看護休暇」などという形で、有給休暇に加えて特別休暇を付与し、休みを取りやすくしています。特に、小さなお子さんは体調を崩しやすいので、こういった制度があると助かりますね。また、学校行事の際に利用できる「スクールイベント休暇」も、かなり利用されているのだそう。
それに加えて育児中は、子どもの体調不良など、休むほどではないけれど在宅で仕事したいという状況も起こりやすいもの。在宅勤務は通常週2日までのところ、「在宅増」で週3日から5日まで認められるのもありがたいですね。
また、介護支援に目を移すと、「家族の介護・看護」でも在宅勤務・フルフレックスが可能に。個人的には、「ペットの介護」が含まれているのも見逃せません。会社勤めをしていた頃に、飼い猫の看病のために会社を休んだことがあるのですが、上司にはかなり言い出しにくかったです。急な休暇取得の申し訳なさと重なり、しばらく後ろめたい気持ちでいっぱいでした。最初から制度で規定されていれば、引け目を感じることなく利用しやすいですね。
制度の社内周知には、月に1回程度「制度お知らせ便」をSlackで発信しているそうです。加えて、Slackには子育て中の社員を対象にした「パパママチャンネル」も設置。2024年2月現在でおよそ20人が登録し、「インフル流行っているので気をつけてね」「ベビーフードいりますか?」といった私生活の情報交換や、PR支援のプロジェクトで子育て中の人の意見を聞きたい際には、リサーチの場として活用されています。
「おそらくクライアントワークをされている他の会社さんも同じかと思いますが、チームでの連携や助け合いの文化がすごくある会社だと思います。エージェンシーの事業においては、基本的にチームでクライアントを担当しますので、子育て事情などにかかわらず、自分の役割を超えて助け合ったり、ボールを拾い合ったりするというのは意識しています。従業員満足度調査で会社の良いところを尋ねる質問には、『人がいい』とか『助け合えるチームである』といった回答が多く上がっています」
制度だけでは解決できない、細かな問題や流動的な課題はもちろんありますが、制度の利用率は高く、一定程度は社員のワークライフバランスに寄与できているのでは、とのこと。ちなみに、人財開発局で今フォーカスしている課題は、社員のスキルアップやキャリアアップについて。例えば、個人のマネジメント力や提案力アップ、PRの専門スキル、ビジネススキルの強化などです。会社として定期的に学びの場を設けることで個人の実力を発揮できるようサポートし、クライアントへ提供するサービスの価値を上げられるよう取り組んでいるということです。
長く活躍できるための福利厚生制度を整備
ビルコムには、働き方をサポートする際の方針として、長く活躍したい人が実力を発揮しながら成長していくことを中長期的に支える、という大きなテーマがあります。そのため、育児や介護と仕事の両立支援以外にも、さまざまな福利厚生制度を用意しています。
例えば、「どこでもワーク」は週に2日間のリモートワーク可という制度ですが、2023年7月に導入した「もっと!どこでもワーク」はさらにパワーアップして、ワーケーションに利用可能な制度になっています。これは、若手社員から声が上がり、半年程度のトライアルを経て導入。1週間連続でのリモートワークが可能なため、帰省の際や、同期社員同士で海外に行った際に利用されたとか。
これらの制度の整備は、世の中の動きや社員の要望を踏まえて、必要があればそのたびに、制度化やトライアルを実施してきたそうです。制度を検討する際は、1年に1回実施する社員満足度調査で得た声のほか、普段上司に寄せられる相談内容も参考にしているそう。前述のビルケア制度でリモートワーク可能な介護の対象にペットを入れたのも、同様の相談が増えていたことがきっかけで、2024年1月から制度に追加したのだそうです。各部署のマネージャーが密にやりとりしている環境が、このようなきめ細かい支援の制度化につながっているようです。
社員発信で始まった「ゆとりうむプロジェクト」
ところで皆さんは、“時短(時間の短縮)”ではなく“時産(時間を産む)”へ発想を変え、人々が「ゆとりある生活」を送ることを応援する「ゆとりうむプロジェクト」をご存じでしょうか。各分野の専門家の知見や、複数の企業・団体の商品・商材を活用した「ゆとりうむ“時産アイデア”」を提供する企業共創プロジェクトです。2023年度のグッドデザイン賞も受賞しており、まさに今注目されているこのプロジェクトは、ビルコムが発案し、事務局となって運営をしています。
「『ゆとりうむプロジェクト』は、クライアントのPR活動をご支援するなかで始まりました。暮らしを便利にしたり、共働き世帯を支援したりする商品・商材を持つクライアントが多かったので、それらによる便利なハウツーや開発の背景にある想いを世の中にもっと伝えたく、プロジェクトを発足したのです。発起人となった社員もワーキングマザーで、お子さんを育てながら長くこの業界で活躍してきた女性なんですよ」
2022年と2023年には時産につながる家事のテクニックをSNSで生活者から募集し、審査・表彰する「家事ハック大賞」を展開。こちらも多くのメディアで取り上げられました。
ひとつの商品・商材ではメディアで取り上げてもらえる範囲に限りがあっても、プロジェクトとして社会課題の解決と結びつけて情報発信することで、より広く、かつ複数の商品の良さを伝えることができます。社会課題を探り、解決のための情報を発信するというアプローチは、PR会社が一番得意とするところ。けれど、思っていてもそう上手くはいかないものです。このように具体的な形で社員が個人の経験を仕事に活かしているとは、本当に素晴らしい仕事ぶりです。
「PRは仕事の性質上、世の中とすごく密接です。特に子育てや共働きは注目が集まるトピックで、共感も生まれやすい領域。また、クライアント側でも新しい製品やサービスを検討する際に、社会課題の解決を視野に入れていることが多いです。世の中の動きにはみんな敏感になっている、意識を持っているのかなと思います」
同社ではほかにも「HER-SELF 女性の健康プロジェクト」を運営。働く女性に対して健康に活躍するためのノウハウや情報を提供したり、企業に対して女性の健康への理解促進や環境整備のためのサポートを行ったりしています。採用面接の際に、これらのプロジェクトに共感した、という声をもらうことも増えているそうです。
今回、茅野さんのお話から私が感じたのは、社会課題の解決に真剣に取り組む会社の姿勢です。ビルコムでは、社員が育児と仕事の両立を実現させているだけでなく、さらに本業であるPR支援事業を通じて、解決策を積極的に情報発信しています。クライアントの商品のPRにとどまらず、そこには社員自身の思いもきちんと込められているのでしょう。だからこそ多くの人の共感を生み、広がりを見せています。素敵な会社だなと思います。ありがとうございました。
【インタビュアー】シキノハナ
編集者・ライター 兼 華道家。ビジネス雑誌の編集長を経て、複合サービス企業へ転職。約16年間にわたり、広報を軸とした企画業務に携わる。現在はシキノハナを主宰。仕事に、家事に、育児に…と、忙しい女性を心からリスペクトし応援する。
<ホームページ>https://shikinohana.com/